『ジーネックスの全ゲノム検査』提供に際して

事業の背景

2022年に難病の新生児85人のゲノム検査結果から、41人の赤ちゃんの原因が特定され、そのほぼ半数の赤ちゃんの検査や治療方針の変更が行われたという成果が報告されました。このように、ゲノム解析は新たな時代の医療技術として極めて有用であり、ゲノム医療は既に実用段階にあると言えます。従来は治療法のなかった難治性のがんや難病に対しても、全ゲノム情報を用いて新しい治療法の開発が進められています。

これまで最先端のゲノム医療は、主に大都市圏の限られた場所でしか受けることができませんでした。しかしこれからは、どこにいようともゲノム医療の進歩を国民全体が享受できるような体制の実現が望まれています。また現状では、健康に不安を抱える方が、病気を発症した「後」に治療方針を決定することになりますが、病気を発症する「前」に、医療の現場において先進医療等の既存制度で全ゲノム検査を受けられることを望む声も上がり始めています。ただ、公的な医療ではあまねくすべてのケースを想定する必要があるため、その実現にはまだ時間がかかりそうです。

一方で、オンライン技術が一般化したことで、特に民間の側で様々なDirect-To-Consumer(DTC)ビジネスが発展し、地理的な制約を乗り越えられるようになりました。また、全ゲノム解析の費用は10年前は100万円ほどかかっていましたが、数年後は1万円台になると言われています。新たな医療制度の確立を待たずに、事業として全ゲノム検査を広く一般市民にお届けすることも不可能ではなくなっています。

事業者がDTC全ゲノム検査を提供する場合、適切な精度管理を行って結果の再現性を担保するとともに、検査結果の意味付けを明確にし、検査の感度、特異度、陽性的中率なども明らかにしておく必要があります。そして検査を受けた方に対して、検査結果を返却することで今後の見通しについての情報が得られるようにするなど、メリットを示すことが望まれます。

さらに、事業者においても医療従事者と同じく、取り扱う遺伝情報が(他の機微情報と同様に)保険や雇用、結婚、教育など医療以外の様々な場面で、検査を受けた方やその血縁者に対する社会的不利益や差別につながる可能性にも十分に留意しなくてはなりません。加えて、データの研究利用に関する同意取得に際しては、検査を受ける方の利益・不利益について、十分で偏りのない説明を行う必要があります。

ジーネックスからのメッセージ

ジーネックスは、全ゲノム検査サービスを通じて、検査を受けた方々に価値を提供したいと考えてきました。すなわち、全ゲノムデータを持つことで、将来的に遺伝性疾患を発症する可能性を知り、自身やそのご家族が健康について理解を深め、Quality of Life(生活・人生の質)の向上につなげていただくことです。もし、何らかの病的な遺伝子変異が見つかった場合も、わが国の優れた医療資源を有効活用することで、早期発見・早期治療につなげていただけることを強く願っています。

多くの方々がジーネックスの全ゲノム検査を受けてくださることで、将来的なゲノム医療の発展に貢献できます。全ゲノムデータをお預かりするジーネックスが、同意のもとで、医学研究を牽引する大学等の研究機関や製薬企業等が利活用しやすい形でデータを提供することにより、疾患等に関する知見を集積し、疾患の病態や発症リスクを分析し、より効果的な治療法・予防法の開発に役立てられると期待されます。

全ゲノム検査の結果は、検査を受けた方はもちろん、そのご家族のプライバシーや健康状態に関する倫理的・社会的な問題とも深く関わっています。ゲノムは “恐いもの” “悪用されるもの” というイメージを持つ方もいらっしゃいますが、多くはゲノムを具体的に知るきっかけがなく、得体の知れないものとして厭われているのが実態のようです。わが国では、ゲノム情報による差別防止についての体制整備がようやく進んできました。産官学、医学・法曹界、そして市民の智慧を結集すれば、必ずや、全ゲノム情報の実効性ある活用に向けた議論を通じて、わが国ならではの文化の醸成へと至ることができるでしょう。

「個人が自らのデータを持ち、考え、行動する」


ジーネックスは、生命を司る遺伝情報の集合体である全ゲノムデータを解き明かすことによって得られた叡智が、ほかならぬ私たちそして次世代・未来への贈り物になると信じています。

全ゲノム検査を受けていただくことが、皆様がご自身で明るい未来を切り拓くための一助となれば幸いです。